まさに<政権のおごりを映す>

安保をただす 委員会可決 憲法にも民意にも反する 

信毎web07月16日(木)

 理解を得るため言葉を尽くし説得する。そんな姿勢は見られずじまいだった。形式的に審議を重ねて「議論は出尽くした」と質疑を打ち切る。政治本来の姿には程遠い横暴なやり方だ。

 安全保障関連法案が衆院の特別委員会で自民、公明両党の賛成により可決された。憲法違反との批判が高まり、多くの国民が反対する中での強行である。

 集団的自衛権の行使容認をはじめ、自衛隊の活動を一変させる法案だ。「専守防衛」の安保政策を大転換することになる。このまま進めさせるわけにはいかない。

   <政権のおごりを映す>

 委員長を囲み、抗議する野党議員を尻目に与党議員が賛成の起立をする。審議が尽くされていないことを端的に示す光景だ。

 菅義偉官房長官は前日の記者会見で「審議時間は100時間を超えた。いつまでもだらだらとやるべきではない」と述べていた。約1カ月半の審議は、法案が違憲か合憲か、隊員のリスクは増すか否かといった入り口で足踏みを続けた。詰めるべき点はまだ多い。

 きのうの締めくくり質疑で安倍晋三首相は「国民の十分な理解を得られていない」と認めた。相変わらず「理解が進むよう努力を重ねていきたい」とする。採決する状況でないのは明らかだった。

 首相は「日米安保条約改定や国連平和維持活動(PKO)協力法の成立時も国民の支持が十分でなかった。今では理解を得ている」とも述べている。

 成立させてしまえばこっちのもの、いずれ批判は収まる―と高をくくっているようだ。

   <不誠実な首相の姿勢>

 国民の支持が広がっていないことはもとより首相や自民党も承知だった。採決に向け、理解を得ようと躍起になっていた。首相は先週から今週にかけて党のインターネット番組で必要性を訴えた。

 集団的自衛権については、こんな説明をしている。

 ―友人のスガさんの家に強盗が入り、「これから安倍さん、うちに来て一緒に強盗と戦ってよ」と言われても、家に行って助けることはできない―

 ―「安倍は生意気だから殴ってやる」という不良がいる。けんかの強いアソウさんが一緒に帰ってくれることになり、前を歩くアソウさんに不良が殴りかかった。私はアソウさんを守る―

 委員会の審議では、集団的自衛権行使の要件を明確に示そうとしなかった。「情報を総合し、客観的、合理的に判断する。一概に述べることは困難だ」といった答弁に終始している。論理的には説明できず、例え話で限定容認を印象付けるしかないのだろう。

 歴代の政府は、曲がりなりにも自衛隊が憲法の枠を超えないよう腐心してきた。堅持してきたのが個別的自衛権に限る、という考え方だ。わが国が攻撃された事実があって初めて必要最小限度の武力行使ができる。政府の拡大解釈の余地はなかった。

 昨年の閣議決定は、この縛りを外した。新3要件で歯止めをかけたと主張するものの、法案審議ではっきりしたのは恣意(しい)的に対象を広げられるということだ。要件を満たすかどうかは政府の価値判断に委ねられる。

 多くの憲法学者らが法案を「違憲」と指摘する。これに対し、首相は「憲法学者と政治家は役割や責任が全く違う。国民の命や国を守る責任は私たちにある」と反論した。政治家の責任をいくら強調しようと、解釈改憲や違憲の法案は正当化されない。

 問題は9条にとどまらない。憲法に縛られる側の政府が都合よく解釈を変え、制約を緩めるのが今度の法案だ。これが許されるなら他の条項でも同じことが可能になる。最高法規としての憲法の規範性が損なわれる。

   <民主主義が壊れる>

 過去、何人もの首相らが「集団的自衛権の行使は憲法上認められない」と国会で答弁してきた。安倍政権はこれを覆した。過去の答弁があっさりほごにされるのでは何のための国会論議か分からなくなる。本来、立法府が許していいことではないはずだ。

 国会軽視の姿勢は、首相の米議会演説も共通する。法案を提出してもいないのに、夏までの成立を約束した。

 委員会の参考人質疑で与党推薦の有識者からも慎重審議を求める声が出た。与党も国民の反対意見や不安を受け止めるべきではないのか。政府に唯々諾々と従い、日程ありきで押し通すのでは、国会本来の役割を果たせない。民主主義の土台が崩れる。

 憲法上、「できない」とされてきた武力行使を「できる」ようにする。法案が成立すれば、政府の裁量で「する」「しない」を決められる。憲法も民意もないがしろにする政府に重大な決定を一任することはできない。この点からも決して認められない法案だ。

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