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デング熱、「刺客」の蚊放ち撲滅へ―世界的な実験に着手
2014 年 9 月 16 日 11:50 JST
デング熱撲滅プロジェクト」のリーダー、スコット・オニール博士
Eliminate Dengue Yogya
デング熱の撲滅を目指す科学者のチームが、世界のさまざまな場所で大規模な実験に着手する。デング熱は熱帯地方に多い病気で、米国の一部でも感染が確認されている。
実験は、マレーシアでデング熱の集団発生が起こり、死者が出ているほか、日本で最近70年ぶりの集団発生が確認されたなかで行われる。デング熱はフロリダやテキサスなど米南部の州の一部でも発生している。
デング熱の治療法は存在しない。デングウイルスは高熱、激しい筋肉痛、けいれんをもたらすことが多く、重症化すると命にかかわる場合もある。対処法はおおむね十分な水分補給に限られる。デング熱は長年、感染拡大を止められない病気だと考えられてきた。
そこで、オーストラリア主導の研究チームが反撃に出る準備を進めている。具体的には、「ボルバキア」というバクテリアを保持するよう特別に育てられた蚊の
群れを放つ。ボルバキアにデング熱を事実上撲滅する力があると考えられるためだ。チームは最近インドネシアの古都ジョクジャカルタで研究所育ちの蚊を数千
匹放ったほか、9月下旬にはブラジル・リオデジャネイロのスラム街で大規模な蚊の放出実験を行う計画だ。
アイデアの仕組みはこうだ。ボルバキアを保持する蚊(主にネッタイシマカ)が野生の蚊と交配すると、ボルバキアがその子孫に受け継がれ、子孫はデングウイ
ルスから免疫を持つようになる。そして、時間の経過とともにデングウイルスを運ぶ能力のある蚊が減っていく、とチームは期待している。
実験を主導する国際的なプログラム「デング熱撲滅プロジェクト」のリーダー、スコット・オニール博士(52)は「今のところ、デング熱感染を防ぐ有効な手
立てがない」と述べ、殺虫剤を散布する、蚊の繁殖場所を減らすといった現行の対処法が不十分だと指摘する。同氏は「病気の重症度が高まり、集団発生の頻度
が上がっているほか、地理的な範囲も拡大している」と語った。
今後、コロンビアのメデジン、ベトナムの観光地のニャチャンなどで蚊の放出実験が行われる予定だ。
デング熱撲滅プロジェクトは2005年にオニール博士が始めたもので、現在は10カ国から60人前後の科学者が参加する。現在メルボルンにあるモナシュ大
学科学部の学部長を務めるオニール博士は、ほとんど知られていない熱帯病の研究を通じ、ボルバキアがどのようにして特定の昆虫の体内に侵入できるかを学ん
だ。その後、同博士はボルバキアを利用してデング熱と闘うアイデアを思いついた。やぶ蚊にボルバキアを埋め込む技術の開発には数年を要した。それは自然に
は起こらないからだ。ボルバキアはデングウイルスの複製能力を阻害するようだ。
オニール博士は「ボルバキアに関して私が興味を持った点は、ボルバキアには潜在的に昆虫に侵入して自らを保持し得ることと、良い運び屋になって蚊の集団に特性を組み込む可能性があることだった」と述べた。
これまでに、ボルバキアを保持する蚊については、実験室での試験や小規模な野外実験が行われており、頼もしい結果が出ている。昨年オーストラリアの熱帯都
市ケアンズでデング熱の集団発生が起き、125人が発病したことを受け、同博士のチームは周辺の少数の場所で蚊を放った。同博士によれば、これにより、デ
ング熱を運べる蚊の数は急減したという。
オニール博士とプロジェクトのスタッフは、ボルバキアを保持する蚊が放出された場所の監視を続け、蚊が放出されていない場所よりデング熱の発生件数が減ったか否かを査定する計画だ。
デング熱撲滅プロジェクトには過去10年間で4000万ドル(約42億9000万円)の資金が集まっている。この研究が有望だからだ。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団の広報担当者は、「われわれはこのプロジェクトのこれまでの進捗(しんちょく)と、デング熱制御における持続可能なアプローチ
をもたらす潜在力があることに興奮している。ただし、研究は現在継続中であり、概念がまだ立証されていない点を承知しておくことが重要だ」と述べた。同財
団はこの研究に出資している。
オニール博士によれば、ブラジルでの蚊の放出実験を控え、チームは地域住民と面会し、懸念に対処したという。住民からは技術が安全かや、環境の自然のバラ
ンスを崩さないかといった質問があった。同博士によれば、チームはボルバキアが他の吸血性昆虫に自然に見受けられるもので、悪影響は生じていないようだと
説明した。
世界保健機関(WHO)は毎年、世界で5000万―1億人がデング熱に感染していると推測しており、とりわけアジア太平洋地域に感染者が多い。科学者は気候変動によって、欧州南部などの観光地にもデング熱が広がる恐れがあると警告している。
マラリアの感染者とそれによる死亡者はデング熱のそれを上回るものの、マラリアの予防薬や治療薬は存在する。マラリアは寄生虫が引き起こす病気だ。フラン
スの製薬大手サノフィ・パスツールはデング熱のワクチンを開発しているが、多くの人々にとって有効でないとの結果が出ている。
オニール博士は「われわれが今やっていることは、デング熱の拡大を防ぐ上であまり効果を発揮していない。だが、数年後に得られるかもしれない結果にはかなりの自信を持っている。今からそれを楽しみにしている」と述べた。