チェルノブイリの10分の1とは言うものの・・・?!

2011年04月12日 (火)時論公論 「東電福島第一原発・レベル7の衝撃」

東京電力・福島第一原子力発電所の事故について日本政府は、国際的な基準に基づく事故の評価を、広い範囲で人の健康や環境に影響を与える放射性物質が放出されたとして、25年前のチェルノブイリ原子力発電所と同じ最悪のレベル7に引き上げました。
今やこの事故は日本一国の問題ではなく、国際社会の最重要課題の一つとなっています。
ではまず、史上最悪の原発事故と言われるチェルノブイリと今回の福島第一原発の事故を比較してみましょう。
●チェルノブイリ原発事故
まず事故の性格です。チェルノブイリは原子炉が暴走し、小さな水素爆発とそれに続 く巨大な爆発で原子炉が完全に破壊され、噴煙は数千メートルの高さに上り、放射性物質は旧ソビエト国内のみならずヨーロッパ各地にも飛散しました。消火に あたった消防士など29人が急性放射線障害で死亡しました。
その後火災は10日間続き、放射性物質はまき散らされました。
まき散らされた放射性物質のうちセシウム137とヨウ素131の総量は520京ベクレルに上りました。京とは兆の一万倍と言う途方もない数値です。
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 その後困難な封じ込めの作業が続き、ソビエトと言う超大国が総力を上げて石棺と言う巨大な構造物で原子炉を覆いました。
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 ただこのグラフをご覧ください。
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 事故後の放射性物質の放出の経過です。ご覧のように主要な放射性物質の放出は爆発と火事の続いた10日間で終わっています。

●東電福島第一原発事故
これに対して東京電力の福島第一原発事故はどのような性格を持っているでしょうか。
まずこれまでに主要な爆発は1号炉と3号炉の建屋が水素爆発で破壊されました。また2号炉では原子炉を覆う格納容器の一部・圧力制御室で爆発が起き、また使用済みの核燃料をプールで保管していた4号炉でも火災が起きました。
それぞれは極めて深刻な事態ではありますが、大気圏中に放出された放射性物質の量をチェルノブイリと比べますと放射性のヨウ素とセシウムの放出量が63京ベクレル、チェルノブイリのおよそ10パーセント程度の放出量です。
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 大気中への放射性物質の放出は減少しているのも良い傾向です。しかし1カ月たっても事故収束の見通しはつかず、事故は未だに進行形だと言えます。
も う一つは、チェルノブイリが一つの原子炉での事故であったのに対し、地震と津波による電源喪失と言う事態に襲われた福島第一では建屋を含めれば4つの原子 炉が大きな被害を受けて、保管されている使用済みの核燃料も含めれば核燃料の数はチェルノブイリの号炉よりも遥かに多いと言うことです。

また海中への放射性物質の大量の流出と言うのは、内陸にあったチェルノブイリでは無かったことです。福島第一の場合は、世界の原子力施設の事故でも前例の無い量の汚染された水がすでに海中に流出しています。
今回の事故は3つの原子炉の炉心が損傷あるいは溶融し、3つの原子炉建屋が壊れるという同時多発的な被害を受けています。今後の処理の難しさと言う点ではチェルノブイリを上回る困難に、日本のみならず世界は直面していると言えます。
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  ●困難な事故収束への道・世界の英知結集を
それゆえにこの危機を克服し事故収束に向けた道筋を付けるためには、当事国の日本が主体となるのは勿論でありますが、世界の叡智を結集して、原子力に対するこれまでの国際社会が蓄えた知識、知見の総力を結集して、あたるべきでしょう。
福島第一原発の最大の課題は高い濃度の放射性物質に汚染された水をどのように処理しつつ、閉鎖された冷却システムを構築するかということです。
原子炉内の核燃料を冷やすために毎日三つの原子炉におよそ480トンの水を注ぎ込んでいます。しかしその水を回収して循環させる閉鎖的な冷却システムが動かないままです。
原子炉に注ぎ込まれた水とはどのような状態になるでしょうか。燃料棒は損傷し一部溶融していると見られています。
と言うことは、それに接した水の中に様々な放射性物質が溶け込み、高い放射性物質で汚染されると言うことになります。一部は蒸発しているでしょうが、その他の水がどこに流れているのか、分からない状態が続いています。
この汚染された水をどのように回収して、循環させるのか、あるいは何らかの施設に保管するのかが最大の課題です。
東京電力は元々ある冷却システムを回復せようと必死の努力を続けています。それが回復すればこれに勝る解決策はありません。しかし地震や津波、その後の爆発で果たして可能なのかどうか全く分かりません。
既存の冷却システムが復旧できないと言う事態を想定して、国際協力の中で代わりの案も考える必要があります。アメリカ、ロシア、フランスなどの第一級の研究所などに今の発電所の状況を全て公開して、国際協力の中で幾つかの解決策を考えるべきでしょう。
同盟国アメリカは日本政府との間で合同調整委員会を立ち上げ、数十人の専門家チームを派遣し、さまざまなアドバイスや技術支援を始めています。
ア メリカの原子力規制委員会NRCの専門家チームが産業界の専門家とともに対応策をまとめ提言の形で日本政府に提出したとしています。今のシステムを使うに しろ新たなシステムを造るにしろ大量の高レベルの放射性の汚染水を処理しなければならず、技術的には難しい課題となります。また作業する人々の安全を確保 するためにもロボットなどを使い、放射線防御に万全の態勢を築かなければなりません。
困難な課題を克服するために国際社会の叡智を結集すべきだと考えます。

●放射性物質拡散の精密な調査に核兵器国のノウハウを
日本ははっきり認めなければなりません。「原子力発電所は絶対に安全だ」と言う神話の下に我々はこれだけの過酷な事故を想定しておらず、準備は整っていませんでした。
一つの例を上げます。大気中を拡散する放射性物質を観測するためには航空機による空からの調査が必要です。しかし日本独自で空からの放射性物質拡散の観測が始まったのが事故から20日も経ってからです。
アメリカ、ロシアなど核兵器国は核戦争に備える意味でも核災害に直ちに立ち向かう体制を備えています。
アメリカのエネルギー省は先月16日には空から放射性物質を監視するチームを派遣し先月17日から精密な調査を始めました。
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 これは先月エネルギー省のサイトに発表された空からの放射線量の調査です。緑のところは検知されず、高い線量が原発から北西の方向に広がっていることが分かります。
アメリカのエネルギー省が放射性物質の観測について世界最高レベルの能力を持っています。
私が言いたいのはアメリカなど核兵器国が蓄積した知識とノウハウを遠慮なく使うべきだと言うことです。
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  ●住民の支援にチェルノブイリの経験を
日本政府は日本国民の安全を守る意味でもこうした国際協力を積極的に進めて、そこで得られたデー ターを公表するとともに、その一つ一つのデーターがどのような意味を持つのか、国民に対してしっかりと説明すべきでしょう。特に原発の周辺や放射線量の高 い地域での住民への支援と安全の確保という面で重要です。
その点で反面教師と言う意味も含めて、チェルノブイリの経験を学ぶことです。
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 チェルノブイリでは、この図で赤く塗られた場所が居住禁止地域になりました。被爆だけでなく移住による生活の悪化などが住民に大きな影響を与えました。一方耕作が禁止された地区でも農地改良などで農耕が可能となった地域もあります。
福島第一原発から20キロ圏内には避難指示が出され、さらに昨日20キロ圏内の外でも放射線量の高い北西の地域が今後1か月を目処に住民が避難する計画的避難の地域とされました。すでに多くの住民が住みなれた故郷を離れざるを得ない状況となっています。 
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 政府がやるべきことはチェルノブイリを教訓にまずは避難した住民の生活支援を強力に進めるとともに、国際的な協力も得てより精密な放射性物質の拡散の地図を作ることです。
そして農耕地からのセシウム137など放射性物質の除去などチェルノブイリ事故後に得られた知見、知識を、国際協力を通じて活用して、住民が1日も早く元々の土地に戻れるよう最大限の力を注ぐべきでしょう。

(石川一洋 解説委員)
投稿者:石川 一洋 | 投稿時間:23:59

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