とても良い論説ですね!「冷めず騒がず科学的備えを」

【感染症と人の戦い】国立感染症研究所情報センター長・岡部信彦

産経ニュース2010.12.17 03:15
 ■冷めず騒がず科学的備えを
 昨年発生した新型インフルエンザが、人類にとって本当に「新型」だったかどうかは議論が多いが、いずれにしても季節外れに大流行を起こした例外的なインフルエンザだった。このウイルスの型をWHO(世界保健機関)では「A/H1N1 2009」と名付けた。インフルエンザの原因ウイルスが見つかったのは1933年。ウイルスの分子構造までたちどころに解明できるようになったのはこの10年から20年程度の出来事で、過去のウイルスの型を証明することは難しい。
 「新型」は、今後しばらくは毎年のインフルエンザ流行の原因の一つとなるであろう。一方、今まであったAソ連型(A/H1N1)が世界中からほぼ消え、いま中心にあるのはいわゆる新型と、季節性インフルエンザと呼ばれるA香港型(A/H3N2)とB型の3種類となった。
 流行が新たなタイプに置き換わったことによって、結果的に良かったこともある。この数年間で世界中のAソ連型は、オセルタミビル(タミフル)に対してほぼ百パーセント耐性になってしまったが、新型の耐性は目下1%程度にすぎず、治療薬の選択に耐性を考慮する悩みは当面なくなった。さらに、今回の流行は、新たな抗インフルエンザ薬の開発と市場への参入を促した。医師にとって手の内が増えることはありがたい。無駄遣い、不適切な使用を避けて、それぞれの薬剤の特長を生かしながら大切に使う必要がある。
 今年流行中のインフルエンザは、目下のところA香港型が最多で、ついで新型というのが世界中の傾向だ。B型は日本では年明けから春先になって現れてくることが多い。ウイルスの型別で治療方針が大きく変わることはないが、基本的にインフルエンザは注意すべき感染症で、時に大きな被害をもたらす。例えばアフリカのマダガスカルではインフルエンザの流行がなく、ほとんどの住民にはインフルエンザの免疫がなかった。そこへ外部からA香港型が持ち込まれた2002年に大流行となり、致死率が通常の約40倍の「2%」に及んだケースもある。
 インフルエンザワクチン1瓶(1バイアル=大人2人分)作るのには、ニワトリの有精卵1、2個が必要だ。昨年の新型インフルエンザ禍で大量のワクチンが国内で短期間で作られたのは、高病原性鳥インフルエンザワクチンH5N1に備えたプレパンデミックワクチン製造のために備えておいた有精卵を、途中で新型インフルエンザワクチンに振り替えることができたためだ。だが、いつも大量の卵を準備できるわけではなく、人や動物から採取した細胞を利用してウイルスをフラスコ内で培養する細胞型ワクチンの開発が進められている。また、ウイルスの侵入口である鼻の粘膜には免疫ができにくいため、鼻の中にワクチン液をたらしてウイルスの侵入口で強力に防ぐ方法も開発中だ。今回の経験は、インフルエンザの医学・科学を急速に推し進めた。それらを次の世代につなげなければいけない。
 科学はあることをきっかけに進むことがあるが、それは偶然だけでは生まれない。些細(ささい)な結果に目を奪われることなく、地道な積み重ねが必要である。騒ぎすぎず冷めすぎずに科学的に備えを進めよう。(おかべ のぶひこ)

このブログの人気の投稿

恐ろしい!またまた「ステトスコープ・チェロ・電鍵」さんのブログより

国立感染症研究所の安井良則主任研究官によれば「来週には全国的な流行と判断される状況」との事です。

あきれ果てる!!また「ステトスコープ・チェロ・電鍵」さんのブログから引用。