その通りだ!

現場からの医療改革推進協議会

厚労省の「事務連絡」は水戸黄門の印籠か◆Vol.4
久住英二・ナビタスクリニック立川院長・新型インフルエンザセッション(4)
2009年11月9日 橋本佳子(m3.com編集長)

 「厚生労働省から『水戸黄門の印籠』のように、次々と事務連絡が来るが現場では対応しきれない。厚労省、地方公共団体、医師会の話し合いが欠けており、結局は現場の医療機関に負担が来る上、患者の期待に応えられない」
 11月8日に開催された「新型インフルエンザ」のセッションで、ワクチン接種をめぐり、現場の苦労を訴えたのはナビタスクリニック立川(東京都立川市)院長の久住英二氏。同クリニックは2008年6月に開業、常勤医2人と非常勤医という体制で、現在の1日当たりの外来患者数は約180人、ワクチン接種者(季節性)は約60人。
 久住氏は、「困ったこと」リストとして、(1)ワクチンの優先接種対象者の証明書発行希望者の続出、(2)肺炎球菌ワクチンの品切れ、(3)迅速検査キットの品切れ、(4)季節性インフルエンザワクチンの品薄、(5)新型インフルエンザの10mLバイアルの扱い、(6)他県在住者の患者の対応、などを上げた。
 「廃棄するなら、優先接種対象者以外に接種すべき?」
 例えば、厚労省は10月23日に「インフルエンザ迅速診断キットの生産計画について」という事務連絡を出しているが、「既に品切れであり、事務連絡を見て怒りすら覚えた」(久住氏)。
 また、同クリニックでは昨シーズン、季節性インフルエンザのワクチンを約1800人に接種したが、今年は約1400人分しかワクチンを確保できない上、1週間分ずつしか供給されないため、予約を受け付けにくい状況であるとした。その上、「65歳以上に対する接種費用の『割引券』は、自治体から例年通りに発行されている。接種を受けられない高齢者からはクレームが来る」と久住氏は、自治体の対応も問題視する。
 今後、新型インフルエンザのワクチン接種が本格化する。同クリニックには、11月9日に10mLバイアル3本、16日に10mLバイアル4本届く予定になっている。「2回目は3週間後に接種するが、供給の有無は現時点の不明で、どう対応すればいいのか。しかも、1本2万5000円ほどで、余って廃棄する分は医療機関の持ち出しとなる」(久住氏)。
 久住氏は、「廃棄するなら、優先接種対象者以外に接種すべきか」とフロアに問いかけ、賛成者に挙手を求めたところ、参加者の大半が手を上げた。
 「ワクチン輸入に抵抗していたのは医系技官」
 ワクチンの量的不足については、フロアからも問題視する声が上がった。一方で、同じく「新型インフルエンザ」セッションのシンポジストの森兼啓太・山形大学医学部附属病院検査部准教授(10月までは東北大学大学院医学研究科講師)は、「東北大では新型インフルエンザの診療に従事しない私まで接種が可能だった」と述べ、ワクチン供給には、地域差、医療機関差があることが浮き彫りになった。
 東京都など都市部は、久住氏が指摘した通り、他県在住の患者も少なくない。地方自治体のワクチン配分の仕方だけでなく、都道府県別の人口比でワクチンを配分するという国の方法にも都市部でのワクチン不足の原因がある。
 もっとも、「そもそもワクチン量が絶対的に不足していることが問題。ワクチンの輸入に抵抗していたのは、(厚労省の)医系技官」。自らも厚労省医系技官である村重直子氏は、フロアから発言し、厚労省の対応の遅れを指摘した。
 「新型インフルエンザの問題は上田博三・健康局長の責任」
 このように「新型インフルエンザ」のセッションでは、厚労行政のあり方、さらには日本で公衆衛生の専門家が非常に少ないことを問題視する声が、異口同音に上がった。
 その代表が、シンポジストの一人、厚労省検疫官の木村盛世氏で、次のように語った。
 「ハンセン病、薬害肝炎など、これだけ被害を拡大させても厚労省は反省していない。官僚組織は、“トカゲの尻尾切り”をされないよう、部下は上司に逆らえない仕組みになっている。医師は実名で手術をし、失敗をしたら責任を問われる。同様に、新型インフルエンザの問題について、上田博三・厚労省健康局長は責任を負うべき。
 厚労省の組織は外科手術を行う必要があるが、今の日本には公衆衛生の専門家に乏しいので、臨床現場の医師がローテーションするなどして登用してはどうか。同時に、公衆衛生の教育体制を整備するとともに、海外で活躍している公衆衛生のプロたちが日本に帰ってくることができるような環境を整えるべき」
 前述の森兼氏も、「厚労省は、『空港での検疫は有効だった』などと言うが、明らかに間違っている。またその後も、初期には新型インフルエンザの感染者を全員入院させるなど、いろいろと問題があり、今はワクチンの問題がある」などと述べた上で、「厚労省には、若い優秀な医系技官もいる。こうした人を最大限に活用できるよう、厚労省改革が必要」と指摘した。
 そのほか、本セッションでは、下平滋隆・信州大学医学部付属病院輸血部講師が、新型インフルエンザと血液製剤の安定供給について語り、「病原の伝搬防止、供血者の減少対策としての血液製剤の保存期間の観点から、病原体不活化の導入が必要」と強調。また、高畑紀一・細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会事務局長は、「ワクチンラグ被害の当事者から見た新型インフルエンザワクチン問題」と題して語り、「他国の多くが、社会システムの防御のための国策としてワクチン接種を位置づけているが、日本の対応は遅れ、ワクチン・ギャップが生じている」と問題視。
 新型インフルエンザに限らず、各種のワクチンについて、その供給体制から、副反応が生じた際の保障制度に至るまで、日本のワクチン行政の遅れ、インフラの未整備がクローズアップされた展開となった。

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